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2010年9月

野球を応援する

 旅に出ました。
 応援団のチアガールとして。
 こさっぺのいる会社は、全国レベルの強い野球部があって、そのための応援団と、チア隊(3人だけだけど)がいるのです。
 こさっぺは入社2年目から、念願かなってチアガールになりました。
 このたび、見事全国大会出場が決定し、応援団みんなで、東京まで夜行バスで応援に行ったというわけ。

 でも出発前は心が晴れなかった。。
 チアの先輩たちとうまくやれるのか……という心配は杞憂に終わったけど、問題は野球部の男の子たち(監督含む)とのことだった。
 以前からの悩み。
 なんであんたら、そんなにあからさまに無視するの!? という。。
 あたしに好かれたら困るとでも思っているのか、過剰な意識で壁を作られている気がする。
 なぜか、野球部員、キャッチャーくんや監督さんにしても、近しい場所にいて、最初は応援されてうれしそうに話してるのに、色々と試合撮影行ったりとか研究用のビデオ渡したりとかしてるのに、途中から突然と、話さなくなるのだ。こっちはにこやかに接したいのに、目も合わそうとしない。明らかに、無視られている……。
 こっちは応援したいのに、応援することができない。
 拒絶されているのだ、というのは、何となくわかる。他の人とは普通に話すのに、普通ならあたしとも話すだろう、という場面で、明らかにとばされるからだ。
 けど時折、(ほんとに時折)あたしが非常に困っている時だけ、さりげなくこっそり助けてくれたりする。が、ありがとうとは言わせない、感じだ。
 こさっぺはしまいにグレた。何だよ何だよ、あたしの応援は、いらないどころか邪魔ってわけですか。もうわかったよ。でもその無視は、普通に失礼だろう。そんなんで負けても、もうお前らなんか知らん! と。
 そんなわけで、応援に行くのが憂鬱だったのだ。自分の存在が、完全否定されているなかで、どうやって応援の声を届けられるだろう。ハァ~。

 応援団の中には、元野球部の、同期の男の子が2人もいた。
 ケガや何やらで、戦力外通告(泣)になった子たちだが、イケメンで、同期の女子たちから超モテモテだった2人だ。もちろん、面識はある。一緒に応援に行って、話したこともある。なのに・・・。
 完全無視ですか。ヘコむ。
 チア服着てポンポン持ってる身にもなってみろよ。
 他のおじさんのOBの人とは普通に話せるのに、同い年の男の子2人とだけ、空気が不自然に滞っていて、強い違和感を感じるのだ。
 この違和感は何だ。どうにかするべきじゃないのか? でも目が合ってもそらされてたんじゃ、どうにもできない。
 応援団のチアガールという、一見華々しい立場にいても、なかなかに辛い状況が続いていた。

 が、試合は始まった。
 野球部の子たちはがんばっていた。それはそうだ、人生がかかってるんだから。   
P1010460  仕事や、立場や、力関係や、夢。
 あたしはそんな子たちを応援したいのではなかったか。
 気がつくと、あたしは踊りながら、大声で叫んでいた。がんばってー! と、出場ナイン全員の名前を呼んだ。
 もう何か、周りのことなんかどうでもよかった。
 あたしは応援したいし、若い女子がひらひら踊って黄色い声援出してるだけでも力になるだろうし、力いっぱい、あたしは応援してもいいんだと思えた。
 もう眩しいくらいにキラキラ踊ってやって、勝利の神様を呼ぶよりましになってやろうと、青空にポンポンをかかげた。
 本気の応援が、ちょっとは伝わったかもしれない。
 野球部はおどろくほど調子よく、いい雰囲気で全員が打ちまくって、見事な大勝利をおさめた。部員たちもスタンドもわき返った。これが1つになるってやつか、と体感した。

 その試合の後、選手の中でも一番活躍した同期の男の子が、取材を受けていた。
 のちにスポニチに載っていた、その記事↓

http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2010/09/19/25.html

 この子には前から活躍ビデオも送ってるし、唯一?普通にしゃべれるので、うれしくて近づいた。
「Tダくんすごいや~ん♪」
「まぐれやって」
 まぐれであんだけ打てるものか。あたしはTダくんの腕をてしっと押す。それが、すっごい筋肉質で硬く、太く重みがあった。今まで会ったどんな人よりも、獅子の中の王様みたいな、すさまじい強さを秘めた腕だった。
「インタビューされてたやん!」
「社会人なってからは初めてや」
 へへ、と素朴なカワイイ笑顔で、テレテレと笑った。
「この調子でガンバッてな! 声出して応援してるから☆ も~時代を、掴んでいって」
 本当に純粋に、うれしそうな笑顔で、Tダくんはチームのみんなの元へ戻って行った。
 すごく純朴ないい子だけど、あたしはあの子の鋭さも知っている。
 バッターボックスに立って、バットをかまえ、投手の投げる球が、手元にきたのを見る時。怖いぐらい真剣な、ガッ!としたまなざしで、手元を通る一瞬のボールを、集中力を高めて、くいいるように見るのだ。宿敵か、獲物を見つめる静かな獣のように。一瞬の間に、何通りもの見方や計算をして、球の感覚を得ているのだろう。
 そして球をつかまえたが最後、大きな体から繰り出されるすさまじい打力で、軟式のボールを場外までかっとばすのだ。
 元々プロに行けるほどの打撃力を持っていて、たくさんいる同期野球部員の中でも、とびぬけて注目された存在だった。そして入社1年目から、4番だった。
 あたしは、この子が活躍して、全国優勝することを切に願う。

 その夜。勝利によって泊まれたホテルで、明日の目覚ましアラーム音をケータイで設定しようとしたら、ある音楽が流れた。
 「夏空」Galileo Galilei。
 野球アニメ『おおきく振りかぶって』の主題歌だ。
 いつか、(やっぱり野球部を応援しよう!)と思い直した時に、ダウンロードした着うたが、アラーム設定に入っていた。
 歌詞つきだったので、再生して聴いてみた。
 すると、やっぱり……というべきか、今の状況に、おどろくほどぴったりの曲だった。
 歌詞の意味が、今の状況と一緒になって、すうっと胸に入ってくる。
 その中に、“約束”という一節があった。
 ああ、そうだった……と、3年も前のことを思い出した。新入社員で、研修中の時。
 今回一緒の応援団で来ていた、元野球部の同期の男の子と隣の席になって、始めて話した時だ。
 その男の子は、鳴り物入りでピッチャーとして会社に入ってきて、希望に満ちて輝いていた。のちに怪我で、不本意な引退をすることになるのだけれど。
 あたしはその時、その男の子といっぱい話をして、背番号まで聞いて、最後に言ったのだ。
「あたしそういうの応援するの好きなんです。またお会いすると思いますけど、その時はよろしく」
 男の子はにこやかに応じて、その後研修中はよくしゃべって、仲良くした……と思う。
 あれは、いつか応援にいくからという約束だったのだ。ずっと応援してるからね、という、あったかい、やさしい、最初の純粋な気持ちを思い出して、あたしはちょっと茫然とした。
 そうだ。あれが最初の、すべての基だったんだ。
 あたしはがんばっている人を応援するのが、本質的に好きなのだ。
 ちょうど、競馬でがんばっている馬を、ずっと応援しつづけているように。その強さでは絶対負けない自信があった。
 だから、志願してチアガールになったのだ。
 男の子たちに無視されようが、そんなことは後から付随して起こった、さまざまな小さいことのように思えた。私は応援するのだ。彼らを。

♪野球アニメ『おおきく振りかぶって』とは
「夏空」Galileo Galilei

 次の日、全国大会トーナメント2回戦。相手は強豪だった。
 しかし1回の表から、昨日記者に取材を受けていた、同期のTダくんが、パッカーーン と打った。
 あたしは飛び上がって、キャーキャーワーワー叫んだ。
 すぐ下のグランドでは、ピッチャーとキャッチャーの男の子が黙々とキャッチボールを繰り返している。点が入ると、選手たちは猿の群れのように沸き立ち、円陣になって喜び、雄叫びをあげまくった。
 その試合も、初回の2点を守りきって勝利した。また午後からの試合に進める。

 午後の3回戦までには、まだ時間があった。
 昨日思いなおしたものの、やっぱり応援に来た同期の男の子たちには完全無視され、ヘコんでいると、この旅で仲良くしてくれているマナーの先生兼秘書の女性が、やさしい京都弁でこう言った。
「男の子たちはね、自分から声をかけて無視されるのが、恥ずかしいんよ」
 ポジティブに、自分から声をかけていかんと! と背中を押してくれる。
 そうですよね! と言いつつ、そうなのかぁ? と思いつつ。。その昼は、野球部員の周りも自由に動き回り、野球部の子に話しかけたりもした。
 キャッチャーの男の子が、近寄ってくるのがわかって、応援が伝わっているのを実感できた。

 3回戦の相手が決まる試合は、どちらも点がよく入って、長引いているようだった。
 応援団の人たちは、グランドの端の木陰で、試合を見守っていた。
 2つのチームはどちらも強そうだったが、何となく、あたしは次の試合は、「香川とやりたい」と強く思っていた。
 あたしは野球のルールは相変わらずわかりきっていないけれど、次の相手――香川が、強いだろうことはわかった。

 3回戦は、どこまでも0点が続いた。
 こちらも点は入らないが、あちらの点も、こちらの剛速球ピッチャーがおさえて、何とか入っていない。そんな状況が9回まで続いた。
 日は傾いて、チアが踊る場所も、伸びた木陰に完全に隠れた。
 点が、入らない。向こうの方が押しているように感じる。胸が重く、胃の痛い状況がずっと続いた。
 本当は、応援に来る前、いにくい状況だから、2日目くらいで早く帰りたいと思っていた。だけどこの時、今日は絶対に勝ってほしい。ホテルに泊まって、明日の試合に進みたいと本気で願った。
 そして試合は延長戦にもつれこむ。午後1時半から始まった試合は、5時になっても終わらない。そして、試合は12回裏、相手の攻撃を迎えた。
 この回が終わったら、さらなる延長戦は、ナイター試合のできる別の球場に移ってやるという。なんとか、もってほしい。ナイターまでいけたら、勝てるかもしれない。
そうだ、この12回を守りきれたら、今まで話せなかった、あの同期の男の子たちと話そう。きっと負けなければ、そうできるはずだ。

 そうして、何とか相手の攻撃をしのぎきり、本当にバスで球場を移動することになった。
 もうのどはカラカラで、踊りに体は疲れているのに、ヘンな緊張感と高揚で、胸がいっぱいだった。
 球場のスタンドから出ていくとき、ぞろぞろ続く人の列の中で、あの約束をした男の子が隣になった。
 あたしは妙に自然に振り返って、その子にやわらかく笑いかけた。
「おつかれさま」
 伝えられた。すると、何も期待してなかったところへ、やさしい声が返ってきた。
「おつかれ」
 その声が思いもかけず、いたわりを含んだやさしい声だったので、あたしは少し驚いた。
 先を歩きながら、のびをして会話を続ける。
「延長になってよかったぁ」
  まだ応援を続けられる。それがうれしかった。
 男の子たちも、ただこれまでしゃべらなかっただけで、普通のいい子なんだと思った。

 ナイターが行われた。
 スタンドの応援団も、グランドの野球部員たちも、緊張感に高ぶっていた。
 13回の表から、うちの攻撃には勢いがあった。ここで点をとらねばという気迫があった。
 でもとれなかった。0点が、また続く。
 そして、最初から攻撃ではこちらを押していた香川が、ついに2本、ヒットを打った。3つの塁が、満塁で埋まる。
 月のきれいな夜に、グランドの夜行灯がまぶしかった。
 重く張り詰めた空気。マウンドのピッチャーは、2回戦まで投げて足の爪をめくらせていた、最年長のエースに変わっていた。これまでの試合はこびを見ていられず、エースとしての誇りもあったのだろう。でも、
 甘い球を投げた瞬間、相手バッターが鋭い打球を放った。
 カアン! という打撃音とともに、塁の3人が回る。大歓声。あたしの悲鳴。相手チームの選手が全員飛び出してきて、跳ね回り、抱き合って雄叫びをあげた。
 ウウウウゥ~と、容赦もなくうなり出すサイレンの下で、重い足取りの選手たちが、うつむいてゆっくりとスタンド下に帰ってきた。言葉もなく、泣いている子もいた。
 あたしたちは、いつまでも拍手し続けた。
 やがて、スタンドから人が去り始める。見ると、チアの先輩が座ったまま、泣いていた。
「だって、がんばったのに~…」
 と言いながら、タオルで顔を押さえている。
 その時、すごく切なく哀しい気持ちが、あたしの胸にどおんと重たく入ってきた。
 すごく胸が痛い。苦しくて、割れるようだった。
 どうにもならない気持ちが、全身を渦巻いている。
 そのまま、チア3人でぽつぽつと歩いて、体は重いままで、足だけが動いて球場を出た。
 その時、監督さんと出会った。
 ありがとうございました、とみんなに、こちらにも向いて言う監督さんに、あたしは心から飛び出すまま声をかけていた。
「お疲れさまでした!」
 いたたまれなかった。監督さんの気持ちを思うと、一連の苦労を知っている(最近まで同じ部署だったのだ)だけに、何とも言えない気持ちが溢れた。本当に、こんなに胸が苦しいことはここ数年なかった。

 その後も、帰りのバスの中でひどく沈んでしまって、胸の重い痛みがいつまでもとれなかった。
 けれど、応援団できていた野球部OBたちは、元気に笑っていたので、少し救われた。
 帰りしに寄ったお風呂やさんでは、夕食も食べられる部屋があり、そこで野球部OBさんたちに混ぜてもらって話していると、気が安らんだ。
 ごはんを食べると、うっ、と胸の痛みがぶり返してきて、一瞬ぱったり横になってしまった。全て終わって、力を使い尽くしたのかもしれない。体も筋肉痛で、節々が痛かった。

 あとは寝れない夜行バスに乗って、時々サービスエリアで降りながら、帰るのみだった。次の日が休みなので、まだ体が休める余裕がある。
 ふらふらになりながら帰ったけど、それでも、行ってよかったと思えた。
 多分これからは、野球部に対する接し方がまた変わるだろう。今回、本気で応援できたから。
 ほんとに、本気で応援していこう。
 それがあたしの、したいことだから、そうしていこうと思った。

   

 追記(9/22)

 あたしたちが延長の末惜敗した、香川は、決勝戦まで残り、なんと優勝してしまった。
 → 結果 http://www.jsbb.or.jp/game2010/tenno-shihai/images/img_tournament.pdf
 そのニュースをネットで知った時、あたしは野球部員のいる下の階のA業部に、一目散に駆け下りていった。
 営業場の中を見ても、野球部の子2人(ピッチャーと、前まで無視られ気まずかったキャッチャー)は見当たらない。あたしは、仕事中の、応援手伝いに来ていた1年目の男の子に、ムリヤリ話しかけた。
「知ってる!? うちらが負けたあの香川が、ついさっき優勝した!」
 1年目の男の子は最初要領を得ないようだったけど、その隣で、それまで1年目の子に仕事を教えていた同期の男子が、要領を得たとばかりに、
「じゃあ野球部のメンツも保たれるなぁ~」
 と笑う。
 そこへ、後輩のピッチャー君(今回は投げてない)がやってきた。あたしは手で招いて呼びとめる。
「M脇くん! 香川優勝した!」
「……まじっすか」
 野球部のメンツも……と、同じようなことを言う。そう、うちの会社ではそのへんが大きな問題なのだ。
 興奮して言いに来たあたしは、意気揚々と、2階の仕事場へ帰って行った。

 そういえば、キャッチャー君の姿は見ることがなく、応援の旅の時から結局一言も話していない。
 どうしているかと思って、後ほど様子を見に、階段から下を見下ろすと……
 こっちに気付いて、ばっちり見つめ返された。
 でもそれは嫌な目線ではなく、むしろ親しみの溢れたやわらかいものだった。
 応援した気持ちが、伝わっているのがわかった。
 伝わったんだ。よかった。よかった。よかった。応援してよかった。
 あたしはちょっと泣けてきて、ゆっくり階段を上に戻ったのだった。

 うちのチームが、十分幸せになれますように。
 
 

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