暁の魔物アクディアヌス
今が西暦何年かなんて知らない。
オレは荒れ果てた大地の上空を、黒く細かな石を含んだマントをまとって飛んでいる。眼下に広がっているのは、暁の陽の光を受けて、赤茶に染まる土や、遠くにそそり立つ逆さつららのような山々。けぶる雲が天上で渦巻いて、空のオーロラ色を乱反射させている。ここは海に近いから、雪は地表にうっすらと積もるだけだ。
オレはギルドの命令に従って、狩りに出ている。今追っている獲物は、魔物、アクディアヌスだ。
その魔物は恐ろしい異形で、巨大な体躯を持つという。皮膚の色は毒々しく脈打って、放つ魔法は凄まじく周囲を破壊する。非常に頭が良く狡猾で、人類最後の砦である各地のコロニーから、中枢の石の魔力を奪っているらしい。
これは人類の存亡に係わる非常事態だと、オレまでが駆り出された。
けどオレは、一万何百年前に核戦争があったとか、地表に現れた石が七つに割れたとか、どんな英雄が石を浮かべてコロニーを作ったとか、そんな政府の作ったお題目の歴史に興味はない。
正義のために戦おうとも思わないし、世界の事実を勉強しろとか言われても、オレには関係ない。
オレが狩人になったのは、ただ、生きるためだ。それ以外の道は知らない。
子供の頃、地上の旅人の一座から飛び出した時、気がつけば、手にはナイフがあって、周りは魔物たちに取り囲まれていた。
だから魔物を殺した。そうやって、必死に腕を磨いてきた。ずっと一人で生きてきたんだ。魔物を倒すと、金が貰えるから。毒を噴き出す蟲の怪物や、双頭の獣。多くの魔物を殺して、何も感じなくなった頃、勝手に最上級ランクの狩人として、コロニーの狩人ギルドに入れられた。
そんなギルドに、何を言われようと関係ない。
ただ今度も魔物を狩って、金を貰うだけだ。
急に、世界が明るくなった。オレは顔を上げる。太陽が雲から顔を出したのだと知る。
皮膚の焼けるような風が、オレの上をすり抜けていった。地の果てまではびこる氷塊が、燃えるように輝いた。オレンジに紫の滲む空が、光を含んで淡く広がる。
その魔物は、地から土の積み上がった、細く高い山の上に座り込んでいた。人間よりも大きな体を丸めて、肩の上には翼を広げた小竜を乗せていた。
内側から発光するような、赤銅色の瑞々しい肌だった。伸びやかな手足を折りたたんで、膝を抱えている。引き締まった体や胸のふくらみに巻きつく、赤い薄布が、風になびいた。虹色の糸のような長い髪が、さらさらと波打って、風に舞い上がった。
細い首を傾げる魔物の、目鼻立ちは、魔法の力であるかのように整っていた。寂しそうな、澄んだ真っ赤な瞳が、オレを見つめた。オレは息を呑んだ。瞬間、
「出たぞ!!」
狩人の一人が叫んだ。
後ろからやってきた狩人の一団が、オレの背後にまで追いついてきていた。
放たれた光弾が、幾本も連なって構えられた、魔石の入ったライフルから飛び出して、魔物の方へと向かっていく。
魔物は驚くべき速さで身を翻した。肩に掴まる小竜の羽ばたきの推進力も合わさって、見たこともない速度で飛び去っていった。魔物が一瞬前までいた跡や、その足先で、光弾が色とりどりに弾け飛ぶ。光弾に込められた魔法が、空に力を放って虚しく散った。さらにその後を、翼竜型や猟獣型のロボットに乗った狩人たちが、大群を成して追っていく。辺りは騒ぎ立ち、戦場と化した。
オレは背中に掛けた大型ライフルも抜けないまま、飛び出していく光弾の中で、魔物の遠ざかる空を見つめていた。どうしてあの時、狩人としての屈辱を感じたんだろう。これが、魔物アクディアヌスとの出会いだった。
* * *
ガルフ、生17年、狩人S、と書かれたカードを、オレは腰の合成革袋から取り出した。アクアブルーのラインが入ったカードには、忌々しい顔写真までついている。ただでさえ黒髪黒眼なのに、表情まで辛気臭い写りだ。
十三歳の時から、コロニーに移り住んで四年になる。ここはコロニーの中でも共和的な、老院会による政治が行われている、第五コロニー・アクアだ。
カードキーを通すと、青い魔法の光が、ドアの表面に刻まれた溝を伝った。ドアが開いて、オレは図書館に入った。
巨大な館内は丸いドーム型で、本棚が幾重にも重なって、天井まで高く積み上がっている。人々の姿はまばらで、手に本をとって自由に往来している。中央には壮麗なシャンデリアが、下の読書用の茶色い机には、光る花が花瓶に飾られた、洒落た造りになっている。
オレは赤絨毯の通路を、奥まで進んだ。政府の作ったお飾りの伝説に興味はないが、オレは今、魔法の力に興味があるんだ。魔法に関する書棚へ行き、はしごに足をかけて、文献や古文書を開く。魔物は古くは魔女と呼ばれ、その昔は魔法使い、小悪魔とも呼ばれていたとある。
オレたちが生きるのは、荒廃した土と、氷に包まれた星、アースだ。一万年前の核戦争の光が、世界の理を変えた。生き物は、人間と魔物しかいなくなった。その時地殻変動で現れた、七色に光る巨大な石が、魔法の源だ。人間は元来、魔法を持たない。石から魔法のエネルギーを貰って、それを機械に流して利用しているんだ。人間はその石を七つに分け合い、劣悪な環境の地上から離れて、石を空に浮かべ、周りに砦を作って、そこで暮した。
一説では、核シェルターを空に浮かべた者たちが人間になって、地上に棲んでいた他の生き物たちが魔物になったという。魔物は核の光を浴びて、この魔の星に適応するように進化した。人間も進化して、紫外線や寒さに強くなった。
なぜ? そうなりたいと願ったからだ。それが魔法の力だ。どうしてだろう、魔法と呼ばれる不思議な何かが、オレは気になって仕方ないんだ。
オレは『魔法見聞録』と、『古代文字解析書』を借りて、図書館を出た。図書館は節約源だ。狩人に金はない。ギルドは権力や、場所や人脈は与えて、勉学なども斡旋するが、金はこっちに払わせる。その金も、魔物を狩って、ギルドに提示された賞金を貰って、貯めた金だ。
オレは貴重な資源――金を持って、街に買い物に出かけた。コロニーの一区画には、たくさんの露店が並ぶ長いモール街がある。
珍しい食べ物屋や、服屋、七つのコロニーから取り寄せた色とりどりの魔石屋が、店頭に商品を並べ、テントを広げて所狭しと並んでいる。
「魔法増幅機をくれ」
「あいよ、一千コインね」
オレは最新の機材を買った。
今までは、稼いだ賞金は全て猟機に費やしていたが、最近は自分で設計した装置の部品も買っている。ギルドにあてがわれた部屋に持って帰ろう。オレははやる気持ちを抑えて、足取りも軽く歩きだした。
中央区画の入り口の、警備ロボットたちの前を通り過ぎる。
コロニーの中央区画には、庭園や自然もある。そこには大昔に滅んだ人造のシカや、飛べない鳥がいる。その野原の中央に湧く、小さな泉の上に、巨大な青い石が浮かんでいる。
永遠に途切れることのない魔力を、ここからコロニーの全ての場所に送っている。けどもし、あの魔物アクディアヌスに吸い取られたら、石の大きさも、その保有する力自体も小さくなってしまう。
アースにある国は七つで、コロニーごとに自治されている。第一コロニー・ファイアは王制国家だし、第四コロニー・グリーンは自由と平等の国だ。ここ第五コロニーは民主的な国のはずで、老院会の下に各業種のギルドがあって、さらにその下で六千万人の人間が、働きアリのように暮らしている。ただ生きるために、そうしているんだ。
オレはギルドに割り当てられた寮へと向かう。
カードキーを通してメニューを念じ、コインを投入する。
間もなくチン、という音が聞こえ、食品レンジの扉を開けると「カレーライス」が現れた。
トレーに皿を乗せて、机に移動し、水のような柔らかいイスにゆったり座る。ひとりでに、前方に大きな魔法画面がついて、四年に一度のスポーツ祭典の中継と、音楽が流れだした。手伝いロボットが、忘れていた水を、丁寧に持ってきてくれた。壁に張り巡らされたパネルが、外の天気の雪景色を映し出す。ライトがゆっくりと、柔らかい光を部屋に灯した。
絵に描いたような世界だと思う。まるで古代人が夢見た未来のような。そう、思い描かれた夢が現実になったのも、魔法の力なんだ。
「よう、凄腕の狩人さん」
ふいに掛けられた声は、オレに向かっていた。食堂にいるのは、オレ一人のはずだ。オレは急に現れた気配に振り返った。
入口に手を掛けて立っていたのは、長い金髪に、逞しい鋼のような体の、若い男だった。
「ガルフってのは君か?」
年は五、六歳は上だろう。男は強い青緑の目の端正な顔で、歯を見せて笑い、じろじろこっちを見てくる。
オレはふいと前を向いて、カレーを食べる作業に戻った。
「ああ」
手短に答える。
ふん、と含むような笑いを漏らして、金髪の男はオレの食べている机の前に回り込んできた。
「いい顔だな、色男。だがちょっと細いな」
オレは少しムッとして、自分の腕に目を落とした。確かに体は少し細長い方だと思う。でもこんな筋肉質な男からすれば、誰だってちょっと細い。
「闇の猟犬ガルフ、だろ。知ってるぞ。僕のことは知らないか?」
オレはその恥でしかない通り名に、臓腑がよじれそうになったが、つとめて平静を装った。
「知らない」
「そうか、残念だな。……君は、飛行機器はもたないのか?」
普通狩人は、飛行型のロボットとか、飛行魔法の噴射機を装備している。けどオレは、マントだけで十分だ。マントが含む黒い魔石は十分な飛行力を持っているし、あとは魔法の性質を上手く操れば、飛べる。
「そんなものいらないさ」
「変な奴だな」
金髪の男は、呆れたというわけでもなく、ただため息交じりに笑った。
「じゃあな、ガルフ。僕の名前は言わないよ。また狩り場で会おう」
同業の男は、明るく力強い笑顔を残して去っていった。黄金に輝くように眩しくて、オレは目を伏せた。
* * *
狩りの時間だ。
オレは神経を研ぎ澄まさせる。鎧を付けて、マントを着る。石のナイフや小型銃を腰に差して、大きなライフルを背に肩掛ける。どれも魔法の力がかかった、強力な武器だ。
オレは以前から計画していたことがある。
魔物は個体で魔法の力を持ち、地下のアトランティスに棲むと言われている。その生態や、いつ地上に現れるのかは明らかではない。魔物は神出鬼没なんだ。捕まえようと思っても、出現してから行ったんじゃ駄目だ。遅過ぎる。普通の魔物ならそれでいいが、アクディアヌスの速度は、恐ろしく速い。それで何度も狩人たちが失敗しているんだ。
ただ一つだけ、わかっていることがある。アクディアヌスは、暁に現れる。多くの時を逃した狩人たちの話を聞いた。だからこうやって待ち構えているんだ。この間アクディアヌスが座っていた、高くそびえる細い山に座って、この夜明けの時間に。
初陣で、絶対に仕留める。他のコロニーでは、すでに大なり小なり、石のエネルギーが奪われている。まだ奴の魔の手が石に触れていないのは、この第五コロニーだけだ。だからコロニーの偉いさんたちは、オレをこの地に呼び寄せたんだ。次は必ずここに現れるはずだと。
青黒い夜はもう白んで、周囲三六〇度に広がる地平線が、オレンジ色に焼け始めていた。
ライフルの太い管を開けて、丸い玉を込める。この大型の猟銃は、自分で改造して威力を上げ、厚く硬く強化して、魔力を増幅するように作ったものだ。この間は、背から抜き取ることすらできなかった。どうして撃つことができなかったのかわからない。でも、今度はやれる。オレが光弾を撃ったら、凄まじい速さで魔物に雨と降り注いで、捉えられなかったことは一度もない。管の底に入れる魔石は、ファイアの輝石にブラックの砂塵をかけたものと、黄のライト、白光するクリア、ピンクのハートの三つを合成したものだ。この二つの玉を込めると、あの色でメスの魔物には一番効く。
魔石というのは、各コロニーの石の光を、地上の小石や砂に浴びせて精製されたもので、あらゆる機械の動力に使われている。半永久的に、銃口から光る魔法の塊を生み出せるから、弾切れはないはずだ。
だいぶ赤みがかってきた大気の下の、地表をぼうっと眺めていて、オレは動いていく影に目が留まった。
地上を行く旅人の一団と、護衛をする狩人数名が見えた。馬車ロボットが荷台に人を乗せて、壊れかけた車輪がガタガタ揺れていた。
銃を抱えたまま、オレはしばらく動けなかった。遠く思い出す、昔。地上で狩りの仕事もなく、旅人の護衛をしていた頃。見上げた空の、円盤状に浮かぶ巨大なコロニーは、まるで宇宙から現れた乗り物のようだった。オレたちはきっと、天からあぶれた人間だった。
気がつかなくて、一瞬動作が遅れたかもしれない。
空に突然弾け出た光の泡から、魔物が飛び出した。魔物が異空間から現れる姿を見たのは、初めてだった。虹色の光をまとい、尾の長い竜を引き連れて飛んでいるのは、アクディアヌスだ。
銃弾が爆音をあげ、光の連弾が魔物に伸びていった。魔物と小竜は空を泳ぐように急降下し、オレの周りを旋回する。流れ星のように高速だ。右へ左へ敏捷に舞う魔物に、追う光弾は徐々に近づいて、ついに照準を捉えた。もう逃れようのない大きな魔の光が、アクディアヌスに真っ直ぐ飛んでいく。
捕らえた。
そう確信した。
その瞬間、魔物が空気を蹴って跳んだ。空気が弾力を持ってたわみ、コロナのように揺らいで見えた。
アクディアヌスは跳躍した空中でくるくる回転して、周囲に、振りまく花びらのような魔法を放った。その中心で圧縮され、オレの放った最後の光弾は消滅した。そしてアクディアヌスは、小さな唇の端を上げて、ニコリと笑ったのだ。
やっぱりだ。この魔物には表情がある。そう信じざるを得ない現象だった。
オレはライフルを撃ち続けた。アクディアヌスは空に残像を残して、何度も消えるように跳ねた。今日の魔物は青緑色の髪に、黄金から薄桃色に染まる肌で、毒を感じるくらい綺麗だった。
そうしてオレは対戦初日、アクディアヌスに逃げられた。
その後は、何度やっても一緒だった。失敗ばかり続いた。オレは必死になって、巨大な魔法の罠を作って張ってみたり、マントで飛んでアトランティスへの道を探したり、石のニセモノを置いてみたりした。だけど無駄だった。アクディアヌスは小馬鹿にするようにオレを攪乱して、光を振り撒いて消えた。狩りを始めてから、もう三週間と一〇日が経っていた。
わかったのは、アクディアヌスには魔法を使っても何にもならないということだった。奴は誰よりも強い魔力を持っていたんだ。
ある日オレはしびれを切らして、腰のナイフを抜いて襲い掛かった。
「一体何なんだお前は!」
透明な石の刃と、魔物が瞬時に手から出した、魔の光線が交錯する。小さい石のナイフを凝視して、アクディアヌスは少し怯んだようだった。
えっ、とオレは腕の力が抜けた。アクディアヌスは跳びすさって離れ、小山の上に逞しい脚で立って、赤い目でじっとこちらを見つめた。
「あたしは、死ぬために生きてる」
「何だって」
オレはショックで頭が打たれた鐘のようにグラグラする。人語を解する魔物だって? なんで魔物がこんなことを言うんだ。
「じゃあ今オレに殺されたらいい。お前に生きている意味はないんだろ」
ライフルを構えた。きつく目をすがめて照準を定める。
「死に方はあたしが決めるわ。もう決めてる。絶対そうしてみせる。誰にも邪魔させない」
距離はここから三メートルだ。弾は外さない。心臓に狙いを定めて、
「あんたにあたしは殺せない」
オレはハッとして顔を上げた。魔物は翼を広げた竜と共に、天に昇るように飛んでいった。オレの胸に込み上げてくるのは、熱い苦しさと、怒りだった。
「あんたじゃない、オレの名前はガルフだ!」
オレは魔物の背中に叫んでいた。きっと聞こえてはいない。アクディアヌスと小竜は、朝日の中をするする昇っていって、雲の中に消えた。
* * *
その事件が待っていたのは、オレがコロニーに戻った時だった。
道を行くコロニーの人々は騒然として、太陽の英雄の噂で持ち切りだった。
英雄アハンスラがやって来る、太陽の英雄の再来だ。
誰もが口々に言った。ギルドの狩人たちだけじゃなく、老いた女性や子供まで。
太陽の英雄。それは人間なら誰もが、希望と共に思い浮かべずにはいられない、伝説の存在だ。その昔、石を空に浮かべて、コロニーを作って、人間を救ったと言われる太陽の英雄。このコロニー世界の陽の出を創った者。今は第一コロニー・ファイアの王家として、その血は引き継がれている。
太陽の英雄の再来、アハンスラというのは、全コロニーの人間から賛辞と希望を一身に受けた、狩人の英雄のことだった。コロニー・アクアの老院会にいる父と、コロニー・ファイアの王国の姫君との間で、魔法の光を浴びて生まれたと言われている。高潔な血のサラブレットだ。アースの各地を旅して、数々の恐ろしい魔物を退治し、ついにこのコロニーにやって来た。
人々が駆け足で、中央老院広場に流れ込んでいく。
オレはもしかして、と心に嫌な予感が浮かび、間もなくそれは的中した。
中央老院広場には、コロニーの全住民かと思われるほど、たくさんの人々が溢れ出ていた。民衆の前に立ち、悠然と赤いマントを広げているのは、肩までウェーブした黄金の髪と、彫像のように引き締まった体を持つ男だった。
「歓迎をありがとう」
力強く優美な声は、魔法に乗せられて、場内全てに響いた。
「皆に僕が太陽の英雄の再来だと言われていることは知ってる。僕が英雄であるのは、意義のあることなんだ」
辺りを、期待を込めた沈黙の空間が包んだ。
「今各地で、ある史上最悪の魔物が、コロニーの石の力を奪っている。僕は信じている。魔物をせん滅することが、人間が生き残る道であることを。僕はそのために生まれたんだ」
周囲がざわつき始めた。その中で、オレは真っ直ぐ壇上のアハンスラを見る。
「奴らは我ら人間の最後の希望である石を奪い、人間を殺戮の本能にまかせて襲い、アースの地下に巣くって大地の力を吸い取る邪悪な存在だ。奴らはアトランティスという魔界からやって来た、悪の権化だ。世界を荒らす魔物は即刻、退治する」
人々が、まるで場内の熱気に憑かれたように、魔物への憎悪を吐き始める。魔物を殺せ、魔物は悪だ、石を持つ人間こそ正義だ。
「僕は、人が生きることが正義だと信じる。僕が、魔物アクディアヌスを殺してみせる!」
アハンスラは、赤いマントの下から、大きな剣を振り上げた。人々は腕を突き上げ、広場を渦巻く熱と歓声が包んだ。
大掛かりな魔物狩りの出陣の準備で、狩人たちは慌ただしく、辺りで武器の整備や、魔石の運び込みを始める。
演説と、老院会での会食を終えたアハンスラが、人々の間を軽やかに通り抜けて、オレに近づいてきた。
「よう、ガルフ」
あの金髪の男だった。太陽の英雄の再来が、金髪に緑がかった青の瞳だということは知っていたが、まさかこいつだとは思わなかった。
「英雄らしい演説だったろ?」
悪びれもせずに言う。オレは黙っていた。
「君には僕の片腕になってもらいたい」
と、アハンスラは目の奥に真剣な光を宿らせて言った。オレは沈黙を保つより、今胸に溢れ出る疑問をぶつけずにはいられなかった。
「あんたは、魔法の光を浴びて生まれたと聞いた」
まるで魔石のように。それは魔の力を持った人間ということではないのか。それは人間というよりむしろ……
「さあ、そうかもしれないな。でも僕は太陽の王の子孫なんだよ、ガルフ」
アハンスラはあっさりと答えて、狩りの準備をする狩人たちの後ろを、颯爽と歩き去った。
出立の時間はアハンスラの預言で決められた。奴は魔法の勘で、魔物の現れる時がわかるらしい。
オレは前衛部隊の一員として配置された。数えきれないほどの狩人の軍は、アクアだけじゃない、近隣のコロニー・ミスト、ファイアから、アースの裏側のライトまで、あらゆる場所から集まってきていた。
アハンスラが、足首に両の翼の生えた、ヘルメの靴を履いて飛んだ。
コロニーを背にして大気の霞む向こうまで並んだ部隊が、次々と飛び立った。空はもう陽の高く昇った時間だった。
本当に現れるんだろうか。オレはあてがわれた馬型の飛行ロボットに乗って、先頭を行くアハンスラを眩しく見上げながら思う。こんな大軍で押し寄せる先に、本当にアクディアヌスは姿を現すのか?
初めてアクディアヌスを逃した日に感じた、狩人としての屈辱が蘇ってきた。なぜだろう。アクディアヌスは今日本当に殺されてしまうのか。そしてあいつ、アハンスラが、史上最も邪悪な魔物を狩った狩人として、新たな伝説にその名を刻むのか。そしてオレはあいつの片腕として、生きるのか。
白く輝く丸い太陽の中に、黒い点のような影があった。影はよく見ると人の形をかたどっていた。腰に手を当て、足を開いて空中に立っているのは、アクディアヌスだ。まるで待ち構えていたように。
若草色の髪が波打ち、緑に萌えて輝いた。滑らかなチョコレート色の肌の中で、桃色に潤む唇が、不敵に笑っている。たった一人で、オレたちに戦いを挑みに来たかのようだった。
「いたぞ!」
アクディアヌスは、体を弧に曲げて浮かび上がり、追うオレたちを尻目に確認して、透明な蒼空に飛び出した。
空全体が、色とりどりに埋め尽くす光弾で、見たこともないほど真っ白に染まった。普通の魔物なら消し飛んで跡形も無い。その中に飛行兵器を駆った狩人たちが、次々と飛び込んでいった。
その渦中から回転しながら、アクディアヌスが上空に飛び出した。体には傷一つなく、薄い光の膜に包まれている。
高度に造成された魔獣たちがアクディアヌスに襲い掛かる。だが赤子を優しくあやすように、手で撫でて消されていく。遠くから放たれた巨大な魔砲弾も、アクディアヌスを避けるように、その周りで弾けた。凄まじい魔法の爆風が辺りを包み、狩人たちを撃墜させていく。
怯む狩人部隊の中から、アハンスラが飛び出していった。腰から抜き放った大剣を振りかざす。その猛烈な速さの攻撃に、アクディアヌスの細い腕は防ぎきれないように思えた。
その時、大空に巨大な閃光が発生した。光の中から現れたのは、透明な石の長剣だった。刀身の内部に、アクア以外の六つの色の光を含んでいる。
アクディアヌスの手の中に現れた巨石の剣は、アハンスラの力の斬撃を受け止めた。幾つもの剣筋の残像を残して、ぶつかる剣舞の応酬。英雄と魔物は剣を交えながら、高く空に上昇していった。辺りは熱で膨張したように、緋色に染まった。
強大な剣と剣がぶつかって、ぎりぎりと力を押し合う。拮抗する剣の間から、アハンスラが憎々しげに言った。
「この魔物め! なぜ石の力を奪っているんだ!」
アクディアヌスは黙って、真紅の目で睨みつけた。アハンスラが腕力にまかせた剣を振るう。アクディアヌスは一瞬よろめきかけたが、すぐに体勢を立て直して、切先を向けて構えた。
やっぱりだ。アクディアヌスは剣に弱い。
けどそれは英雄であるアハンスラに比べたらの微々たる差で、誰もが空を見上げたまま、近寄ることはできなかった。今人々は、新たな伝説の英雄が、悪の魔物を倒して勝利の雄叫びを上げるのを、息を殺して待っている。
「お前はこの世にいてはいけないんだ!」
アハンスラは頭上で風車のように大剣を回した。
伸びる剣先はいくつも、アクディアヌスの全身の肌の上に、切り傷を開かせた。
「くっ」
魔物はうめき声を上げた。流れ出た血は赤かった。アクディアヌスは膝を折って、空中にくずおれた。アハンスラは大剣を天の太陽にかかげ、力強く振り下ろした。
忽然と、アクディアヌスの姿が消えた。
剣は空を斬って、アハンスラの体は半回転ほど空中に浮かび上った。アクディアヌスは、異空間の彼方に消えたのだ。
色めきかけた狩人たちは、狩りにはつきもののよくある出来事、失敗、を悟った。燦々と降り注ぐ太陽だけが、人々を照らしていた。
* * *
辺りは闇だった。
オレはいつかの小高い山の上に座って、あの魔物が現れるのを待っている。なぜか、きっとやって来ると直感する、魔法の力が感じられたんだ。まだ夜も明けぬうちだった。
夜は濃紺から地面の方へ淡く紫に薄まり、突き出す細い山々の影を浮き上がらせていた。
手負いの魔物は腕の傷を押さえながら、やはり少しずつ朝に近づく風景の中に、浮かんでいた。
風の中で弱々しく、まるで何かに惹かれるような切ない瞳で、コロニー・アクアの方向を見つめていた。
オレはぼんやり、魔物も傷はひとりでに塞がったりしないんだな、と思った。
と共に、山頂を蹴って跳んだ。マントをはためかせて魔の風を起こし、推進力に乗る。オレは魔物アクディアヌスに真っ直ぐ飛んでいき、強く握ったナイフを閃かせた。
昔からいつも腰にある、小さな石のナイフだった。ありったけの魔法を込めて、この牙を研いで待ち構えていたんだ。オレはあの魔物の弱点は、剣だと気づいた。それも金属の剣ではなくて、石でつくられた剣の方がいい。
アクディアヌスはすぐオレに気づいた。防ごうと魔法の膜を張ったようだったが、オレはかまわず斬り込んだ。膜を食い破ってオレの腕は、即座に後ろに跳んだアクディアヌスの、胸の前を振り切った。
追い掛けっこの始まりだった。アクディアヌスは消えるような光速で移動した。オレはマントを爆風に揺らして最高速度で飛び、次々とその残影に切りつけた。硬質な半透明の石の刃を、アクディアヌスは体をねじって避けていった。
オレの斬撃は受けるまでもない、か。そうさ、わかってる。オレの飛行速度は、こいつより圧倒的に遅い。ただこいつが、石の刃物を怖がって、逃げているのは確かだ。
オレは何でもないような最後のひと振りで、アクディアヌスをまだ闇の残る西の方へ追いやった。
その時、アクディアヌスは空中で動けなくなった。張り付けにされたたように、手足に力を入れて必死に外れようとする。よく見るとわかる。その空間には、複雑に張り巡らされた、透明な石の糸があったのだ。
オレが自分で魔法の力を利用し、作った罠だった。以前、この魔物を罠で捕らえようとして張った時は見当てられ、全て切断されて蝶々結びなどにされていたものだが、今は石のナイフの魔力に気をとらせて、知らぬうちに、綿密なトラップの中に誘い込んだのだ。精密に計算した罠は、もがけばもがくほど、魔法の力を急速に奪う。異空間に移動するほどの魔力は残させない。
オレは黒く長いマントを緩やかな風に乗せて、ゆっくりと近づいた。
糸に脚を、肩を、髪を絡ませたアクディアヌスは、命の灯火が揺らぐ目で、オレを見つめた。オレは即座に、腰に差していた小型銃を抜き放ち、魔物の腹部に撃ち込んだ。
魔物は一瞬痙攣して手足を反り、すぐに力を抜いて動かなくなった。
オレはついに、魔物アクディアヌスを狩ることに成功した。
朱色の横長に丸い陽が、ようやく荒れた石岩の転がる地の上に、じりじりと顔を出した。
大空を横切って、オレは網状の糸に絡まったままのアクディアヌスを抱えて、マントを風に巻き上げ飛んでいく。銃に込めた魔石の、麻酔の魔法は効いていた。アクディアヌスは浅い寝息をたてている。
前の大狩りで英雄アハンスラは、最後のとどめを刺そうとして、逃げられた。
じゃあ逃げられないようにする。殺すのではなく、捕らえる。それがオレの作戦だった。コロニーの一室に向かって、飛んでいく。
オレは、以前から計画していたことがある。
ずっと不思議に思っていた。地に棲む魔物とは何なのか? どうして人間と違い、魔法を使い、オレたちの世界を破壊しようとするのか?
捕らえた獲物を肩に抱えたまま、オレは自分にあてがわれた部屋に入った。
魔法のライトが点くと、真っ白な機材たちが所狭しと並ぶ部屋が照らし出された。大きな四角い魔法の製造機や、画面にデータ文字を映す魔力の観測機、魔物を入れるための大きな透明ケースもある。奥の方には、細い骨組みの備え付けベッドや、家具もあった。地面に転がる金や銀、エメラルド色の魔石を踏まないように、気をつけて歩く。
ここにある魔法機器は全部、今まで稼いだ賞金で、少しずつ作ってきたものだ。特に機械を作る技術を学んだわけではなくて、オレの頭の中にあった設計図で、だ。魔法とは何なのか、ずっと気になって仕方なかった。魔物を、一度生け捕りにしてみたかった。
オレは気を失ったままのアクディアヌスを、鉱物色の台の上に置いた。よく眠っている姿は、異界の美しい姫君のように見える。体に赤く巻きつく薄布を、幾重にも回して取り去った。肌に触ると、しっとりと温かい。全身を調べてみたが、人間と変わったところはどこもなかった。
オレはそっとアクディアヌスを抱いて運び、透明な魔石の壁で覆われた、大きな流線型のケースの中に入れた。
この魔物が目覚めた時、オレの世界は何かが変わるだろうか。オレはじっと、透明な壁のケースの向こうを見つめた。暗い中に横たわる体は、最初は人間より大きく見えたが、ただ手足が長く筋肉の付き方が良いだけで、今は小さくしぼんで見えた。
どれくらい時間が経っただろう。静かに、魔物の目が開かれた。突然身を起してケースの奥に跳び、警戒してかがむように身構えた。脇にあった赤い薄布が、魔法の旋風に乗せて、裸身に素早く巻きつく。アクディアヌスは全身から裂帛の閃光を放って、透明な壁を揺るがす魔力をぶつけた。
「ムダだぞ。このケースの魔石の壁は、中からの魔法を全て吸収するようにできてる」
アクディアヌスは肩口や脚に傷口の残る、弱々しい体を起こして、腕を床について支えた。オレに向かって真っ赤な意思の宿る目で、睨んだ。
「ガルフ」
名前を呼ばれて、オレはびくりと体が動いた。あの時、聞こえていたのか、と思う。
「あたしをどうするの?」
少し不安げな、痛ましさの滲む声に、オレは眉をしかめて目を逸らした。もうとっくに、ギルドに引き渡して賞金を貰う気はなくなっていた。
「アクディアヌス……お前は、何をしようとしてるんだ」
オレは生きるために、狩りをしてきた。なのにこいつは、死ぬために生きていると言う。
「あたしは、ただ死にたいだけ。自分の出来るように世界を変えて、アースの自然の中でやりたいように生きて、死にたいだけ」
そんなに死にたいと言われると、お前はなぜ死なないのか、と言っているように聞こえる。
「コロニーの生活源の力を人々から奪って、たくさんの人間を殺してか?」
世界を変えるとはそういうことだ。自分勝手で、危険な、人の気持ちを無視した理屈だ。
アクディアヌスは身を強張らせ、地面を凝視した。
「諦めろ。お前はもうオレに狩られた。ここからは逃げられやしない。自由にはさせないし、死なせもしないさ」
アクディアヌスの目が、悲痛に見開かれた。
「あたし、死ねないの?」
魔物はすん、すん、とうつむいて泣き始めた。どうして泣くんだ。オレは胸がぎゅうっと締め付けられて、透明な壁に指を押し立て、小さく震える体を見下ろした。
アクディアヌスの肌は消えゆく淡雪のように青白く、髪は暗く沈む青、目は暮れなずむ夕陽の色だ。
「あたしは、」
アクディアヌスは鼻をすすって、顔を少し上げた。
「お父さんが人間で、お母さんが魔物なのよ」
オレは突然の告白に息を呑んだが、驚くほど冷静だった。
わかっていたような気もする。だってこいつは、あまりにも、魔物離れしている。
「だから、あたしならできると思ったの。ずっと寂しかったわ。アトランティスの都にいても、あたしは一人だったから。竜のラプスも、もういない。もう死ぬこともできない」
魔物の子は、とてもキレイな声で、光る魔石のような涙を落として泣いた。
オレは魔法にかかってしまったのかもしれない。
「死なせない」
オレは呟いていた。
「死んでどうなる。オレの魔法研究の片腕になれよ」
アクディアヌスが、顔を上げてオレを見つめる。オレはじっとアクディアヌスを見つめる。
この透明な壁のケースを開けたら、世界が変わるだろう。そう思って開閉のボタンを押してしまった時、爆発が起こった。
辺りを薄黄に発光する煙が包み、オレは身を折って咳き込んだ。煙は部屋の外からの風で、左右に流れていく。霞み散る煙の向こうに、部屋の扉から飛び出して走っていく、アクディアヌスの姿が見えた。
「おい!」
オレは、肺に入った魔の香りにふらつきながら、走り出した。長い通路の向こうに、アクディアヌスの姿はもう見えない。この一本道の通路の先には、中央区画がある。その中枢には石が。まさかそこにまで突入できるはずがない。強靭な警備のロボットたちが取り押さえてくれているはずだ。
オレは走って走って、中央区画の扉前の大通りまで出た。
扉は半分開いたままで、両脇の警備ロボットが、騒いで転がるように走り回っていた。聞けば、かわいい女の子を中に入れた、と言った。あの魔物はロボットを味方につけやがった。ロボットたちの魔法解析回路は、ショートさせられていた。
馬鹿げてる。
そんなことがあっていいものか。あの魔物を通してはならないんだ。オレは中央区画の中に跳び込んだ。
野に跳ねる鹿や、リスや昆虫、鳥たちが逆方向に逃げていく中、オレは中央の泉をめがけて進んだ。片時も待てない。どうしてだ。オレはそれしかない道を真っ直ぐに進む。
ひらけた野の中央。水の湧く泉の上に浮く、大きく角ばったアクアブルーの石が、青く青くきらめいた。その石に、透明な石の長剣を突き刺して、かかげ持って内部を見つめる、アクディアヌスがいた。青の光は吸い取られるように、六色に輝く刀身の内部に、七つ目の光を宿した。
「お前……」
オレは巻き起こる風の中、また遠ざかっていこうとする魔物を、見つめることしかできない。アクディアヌスは小さくなった石から剣を抜き、石に手をついて、ニコリと微笑んだ。
「じゃあね、ガルフ」
穏やかな眼差しに、オレの心臓は凍りついた。
「待て!」
爆音と共に、天井に巨大な穴が開いて、アクディアヌスは外に飛び出していった。人工の自然は烈風に巻き上げられ、外の世界に吸い込まれていく。コロニー全体が大きく傾いて、崩れだした。オレはぽっかりと暗い空ののぞく穴から、アクディアヌスを追って飛び出した。
コロニーは急速に地面に沈んで、轟音を上げて墜落した。アースの天空は重暗い灰色の雲が渦巻き、地上では大きな亀裂が走って、地表のあらゆる場所からマグマが噴き出して流れる。地殻変動が始まった。オレはマントで空中に浮かんで、周囲の全てに探る魔力を走らせる。七色の石の力を手に入れたアクディアヌスは、どこにいるのかわからない。
地表に割れた大きな渓谷の中を、オレは最高速度を超えて飛んだ。横から、噴き出すマグマの熱風が来る。
待ってくれ。まだ死ぬな。
オレだって、本当は人間と魔物の間の子なのに。
魔法の機器を作って操れたのも、捨てられてたった一人でも生きてこれたのも、何てことはない、半分魔物だから、魔法がわかったんだ。オレは自分の出生の秘密を知りたくて、魔法の中に答えを探していた。
オレが狩人になったのは、たくさんの魔物を殺したのは、自分の中にいる魔物を殺したかったからかもしれない。自分の心を殺して、死んだように生きてきた。この強張った心を、融解してくれる何かを、ずっと探していた。お前が現れて、オレの世界は変わったんだ。ずっと一人で寂しかった。本当はオレが、ずっと泣きたかったんだ。
だから死ぬな。消えてしまわないでくれ。
熱く煮えたぎるマグマの泡が、いっそう膨らんで、弾けた。
まさか。オレはオレンジ色の光を発する、谷底のマグマを見た。
*
石の力を、アースに返すの。アースという名の七色の石を。
あたしは透明な石に七つの光を宿す剣をかかげて、アースの中核に向かう。熱いマントルの中は、黄や赤の光の渦に揺らいで見える。このために、あたしは死ねる。
人と魔の間の子で、地核に飛び込んでいけるほどの魔力を持っているのは、あたしだけだから。これがあたしの生まれた正しい道だと、絶対に信じてる。
どれだけ人に責められて、狙われて、殺されかけても。誰に何と言われても、このあたしが、世界を救ってみせる。
世界を救って死ぬために、あたしは今生きてるから。
なぜかしら、あたしは、この荒廃した世界に生きる人間が、好きでたまらないんだと思う。ずっと嫌がられて、迫害されてきたのに。ああ、お父さん。
人間も魔物も、大好きだから、死のうと思う。
それでも、ただ死にたかったわけじゃない。ぬくもりが欲しかったの。けど、
体中の魔力を残さず、剣に注ぎ入れて、膨れ上がらせる。
アースの核の石に、透明な剣の先が当たった。
*
内部で凄まじい爆発が起こったようだった。まるで伝説の、核の爆発のようだった。でも光は、緑の膜となって大空を包み、大地に広がっていった。
生命の循環が起こった。草や木が芽吹いて育ち、萌える緑が地面を敷きつめて、色とりどりの花が咲き開いた。太陽が暖かく降り注ぎ、湧き水が流れて水を運ぶ。魔法の風が優しく吹きすさって、立ち尽くすオレの髪を揺らした。
岡の下に見える墜落したコロニーから、大勢の人が緑の芽生える大地に出てきた。遠くで騒ぐ歓声が聞こえる。
オレはしばらくの間ぼうっと、雲ひとつない青空を見つめていた。さっきのは何だったんだ。あいつの見た景色が見えた。痛いほどの気持ちが、オレの胸に流れ込んできた。あれはきっとアクディアヌスの見た、アースの核の光だったんだ。
「大丈夫か、ガルフ」
肩に手を置いて、微笑んでオレを見たのは、アハンスラだった。
「凄いな。まるで魔法、だ」
アハンスラは腰に両手を当てて、岡の上から遠くまで、広がる岡や草原、立ち並ぶ木々や、鳥たちの舞い歌う風景を見た。
「新しい世界の陽の出……か。僕は生き残った人たちのために、誰もが安心して暮らせる王国を作ろうと思う。お前も来るか?」
アハンスラは逞しい腕の、片手を差し出した。オレは一瞬躊躇した。けど。
「やめとくよ」
「そうか、」
アハンスラは笑って肩をすくめた。
「じゃあな、ガルフ。また会おう。今度は狩り場じゃなくて、平和な国で会いたいな。もちろん、僕の作った国で!」
アハンスラは草を揺らして岡を駆け降り、燦然と光り輝く笑顔を向けて、手を振って去っていった。
オレはもう、ただ生きるために、狩人でいようとは思わなかった。オレの父親や、あいつの母親がいるかもしれない、幻の都アトランティスを探しにいこうか。人間と魔物の間を繋ぐために生きるのも、面白いかもしれない。
彼女の救った母なる大地で、オレの新しい旅が始まった。西暦一万三千と一八三年、四月一〇日の〝暁の日〟だった。
――― e n d
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コメント
小説教室で、卒業に向けた50枚のラスト課題ですたい。(今回全48枚だけど)
なんか他のみんなは結構書き直したりしてるから、どうしよう~と思ってイジイジ直したりしてたんだけど、
もういいや、いつまでもいじっててもしゃあない、これで完成! アップしよう。
とオモタ。
あんまり上達した気はしないんだけど、やっとスタートラインに立ったカンジ。
前までの若干小手先な作品より、今回は全力ひねり出して書きました。
1つの作品にこだわるより、次々新しいの書いていこうかなっと!
これは、まず
パンチのある女のコ
が書きたかった作品。やっぱ描く対象は女のコでしょう!
あ、ちなみにヒロインのアクディーちゃんは16歳です。
投稿: こさっぺ | 2008年7月 7日 (月) 01時21分